先週、欧州のスポーツ情報誌 SportsPro に掲載された「Purpose is becoming sport’s most valuable currency. Gen Z is pricing it in.(スポーツにおいて、パーパスこそが最も価値のある通貨になりつつある。Z世代はそれを価格に織り込んでいる。)」というタイトルの記事が掲載されたことを受け、特別コラムをお届けします。
「SportsPro」はロンドンに本拠を置く、ファイナンスやマーケティング、スポンサーシップ、放映権やテクノロジー等の経営視点のニュースを主に配信しているスポーツビジネス専門メディアプラットフォームです。米国のSBJ (Sports Business Journal)や同じくロンドン拠点の SportBusiness (旧 SportBusiness International)等と比較すると新しいメディアです。
ですので、環境NPOや活動家の視点ではなく、「いかに稼ぐか」がメイントピックのスポーツビジネス中枢メディアで、経営視点で書かれている点に注目ですが、ご紹介記事では、前提として、先日閉幕したミラノ・コルティナ冬季オリンピック大会を「ストレステスト」として捉え、今後のマーケティングや経営戦略のあるべき姿を提示しています。
本コラムでは、印象的なメッセージについていくつか簡単にご紹介できればと思います。
今年開催予定のメガスポーツイベントのサスティナビリティ推進概観については、先月、先々月の本コラムでもお届けしました。ご紹介記事でも、同じような視座で、「大規模イベントや瞬間がどのように消費されているか」について新たな洞察が生まれていることから、「ファンの行動と期待が急速に変化している」ことが提示されており、その変化にうまく対応するための施策についてまとめられた内容となっています。
1)単に視聴された内容だけでなく、何が残るかで測られる時代が到来
これは、日本のスポーツビジネス界でよく言われる「看板から社会課題解決へ」という文脈に似ているものかと思いますが、「何が残るか」という、アウトカム(活動内容)だけではなくインパクト(成果)まで期待されている点が特徴的だと思います。
「レガシーは、単なるボーナスではなく、最優先事項になりつつある」ことも指摘され、事例として、ミラノ・コルティナ冬季五輪公式TOPパートナーのプロクター・アンド・ギャンブルが、レガシーを重視した活動へと舵を切ったことなどが挙げられています。
また、この変化を裏付けるデータは大変興味深く、有意義なものです。
・ファンの72%(プロスポーツ選手の75%)は、スポーツには社会に良い変化をもたらす責任があると考えている
・ファンの68%は、組織が社会貢献活動や持続可能性に関する方針に取り組んでいる場合、より好意的に評価している
(ニールセンスポーツ業界レポート2026)
2)パーパスをキャンペーンのように扱うのはやめましょう
「パーパスは、アクセス、インクルーシブ、サステナビリティの選択、地域への貢献など、ファンが実感できる意思決定に反映されて初めて価値を生み出します。そうでなければ、単なるコミュニケーションになってしまいます。」
これも重要なポイントだと思います。弊社のSSR(スポーツの社会的責任)コンサルティングでSSR活動ポートフォリオの最適化を支援させて頂くなかでも強調していますが、「ファン体験として組み込む」ためのデザインがますます重視されてきており、その変化が加速しているようです。
ミラノ・コルティナでの事例として、選手たちが知名度を活かして、冬季スポーツの生態系が直面する気候変動リスクに光を当て、インタビューやソーシャルメディア投稿で発信したことから、「気候変動対策の緊急性に対する明確な訴え」に変えたことが紹介されています。
パーパスは、「製品のように構築する」ことが必要、と教示されていますが、現場の活動でも地味で手間のかかることが多いように、丁寧に心をこめてつくりあげる姿勢が求められるのだと思います。でなければ、ホンモノの信頼は得られない時代になったということです。
3)成果を証明できないなら、「パーパス主導」ではない
ファンが「恣意的なストーリーテリングにますます懐疑的になっている」実態から、成果(インパクト)を証明できない場合の危険性について示唆したメッセージです。
記事で事例として紹介されているのは、ミラノ・コルティナ大会の開催前と開催期間中に選手のグループがタイムズ紙に公開書簡を掲載し、IOCに対して化石燃料のスポンサーシップ(イタリアの石油・ガス会社ENI社等)を終了するよう求めたことですが、この記憶に新しいできごとは、理念や発信するメッセージとの整合性が、活動だけでなく事業全体において厳しく問われる時代になったことを象徴していると思います。
とくに、世界的影響力のあるメガスポーツイベントでは、もはや「見せかけ」の活動は通用しなくなったことが、明らかになりましたが、今後続くメガスポーツイベントでの展開と社会の動きについても注目したいところです。
4)Z世代は、スポーツを予定された放送のように消費するのではありません
この時代の流れを、感覚的に理解できるかどうかは、今後のビジネスの成果において、かなり重要ではないかと感じます。
「彼らはアイデンティティ、意味、そしてコミュニティを追っています。体験は、デザインによって繋がり、共有できるものでなければなりません。」
弊社SSRコンサルティングも、ひとつひとつの社会貢献活動や全体ポートフォリオの“デザイン”をすることを主要業務としていますが、それがファン体験をつなげるための重要な機能を果たすものとして評価され、ありがたい内容です。
5)Z世代が勢いを増している…しかし、多くのブランドが考えているようなやり方ではない。
「Z世代は、スポーツに、定刻放送のようにではなく、常に繋がっているカルチャーレイヤーのように関わっている。彼らはアスリートのパフォーマンスだけでなく、その人物像も追いかけている。アクセス、収益、そして現実世界への影響を期待しているのだ。」
OTTがスポーツビジネスの基盤を大きく変えたことは広く理解されているように思いますが、同じような大きな変化が、ファンのマインドやニーズにも起こっていることを感知できるかどうかが、重要です。
このようなデータもあるようです。
- ファンの56%(プロスポーツ選手の70%)は、気候変動をスポーツにとっての存亡をかけた脅威と見ている
- ファンの75%は、チケットが社会や環境にプラスの影響を与えるなら、価格を引き上げても構わないと考えている
- 25~34歳の80%は、最大5%高い価格まで支払ってもよいと考えている
日本ではまだ価格引き上げに対して抵抗があるようなデータを見かけることもありますが、世界的な傾向を常に捉え、こういった分野の変化に対応するのは、時間がかかるので、早めに準備を開始しておく必要があると思います。
Sport For Smile プラネットリーグ「エリートエイト」参画クラブやJリーグはすでにCO2排出量計測は前提で啓発活動も実践していますが、今後より多くのクラブが「経営戦略として」サステナビリティを推進し、SSRポートフォリオを最適化しながら、社会貢献と事業成長を両立できるようになれば、と思います。
執筆:梶川三枝(株式会社 Cheer Blossom 代表取締役)
※原則として、月数回木曜16時~17時実施(1回30分)

「スポーツx社会貢献をデザインする」について”世界基準&日本目線”でビジネス視点から学ぶ個人向け会員制勉強会『Sports Purpose Club』は、キュレーターを務める弊社代表の梶川三枝が、世界最高峰プロリーグ現場での実務経験と、BBC Green Sport Awards/ Sport Positive Awards での審査員やFIBA財団アドバイザーを務める等グローバルスポーツ界最先端のサステナビリティコミュニティでの実績・人脈からの学びを会員限定で共有、今後重視される分野の良質な情報に触れながらセンスを磨く機会とともに同志とつながる場を定期的に提供しています。
プログラム概要:https://responsibility.cheerblossom.com/sportspurposeclub










