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NBAはなぜ社会的責任を果たすのか(3)

弊社15周年を記念して『Sports Purpose』コラムでお届けしている”NBAはなぜ社会的責任を果たすのか”シリーズ第3弾は、事例紹介です。

日本のスポーツ界の方々からは、事例紹介を求められることが大変多いのですが、前提として、シリーズ第1弾、第2弾でお伝えしてきたマインドセットが最重要である点(なぜ、なんのためにこの活動を実施するのかについての理解)は、改めてご認識頂いてから、お読み頂ければと思います。スペースの制限もあり、あまり多くはご紹介できず恐縮ですが、少しでもご参考になれば幸いです。

わかりやすく、人道支援系、環境問題系、特別プロジェクトという3つのカテゴリーにわけて、それぞれの事例について、NBAクラブの活動も含めてご紹介します。

1)人道支援系

人道支援系の活動は、スポーツの社会的責任活動のなかでも重要で、且つ「スポーツの力」を発揮しやすい分野でもあります。国内でも、当初は子ども達のご招待など、”日常生活のできている子ども”であっても社会貢献、という見方がされることが多かったですが、昨今は、貧困家庭など苦しい状況にある子ども達の支援にシフトしているのは、よい傾向だと思います。

・リーグのプレイオフ・ファイナルでの活動

NBA Cares の最たる活動といえば、これ。カンファレンス優勝クラブの貧困地域・子ども達の支援活動で、学校や施設に図書館とバスケットボールコートをつくる、というものです。実は、私もピストンズ時代に幸運にも経験させていただいたプロジェクトで、2004-05シーズン当時は、地域の学校に図書館とコンピューター学習室をつくるだけだったのすが、最近は、Boys and Girls Club 等の福祉施設と連携してバスケットボールコートも設置することが定番のようです。

ポイントは、「カンファレンス優勝クラブにだけ課されている活動」だということです。栄光を手にしたクラブがより高いレベルの社会的責任を果たす、という発想は、あるべき姿であり、また納得感があります。

NBAはカンファレンス優勝が決定してから、ホームとアウェイで数試合を実施しますが、そこで活動のための資金調達を組み入れたアクティベーションを展開し、調整を進めます。ファイナル期間中には、NFL等のプロ選手など地域のセレブリティも参加し、コミッショナーも駆けつけて、優勝決定直前くらいに、オープニングセレモニーが開催される時、NBAブランドは夢や希望といったスポーツの価値とともに、高潔なマインドが生み出す心あたたまる連帯感を地域に届けるのです。

・レイカーズの女性活躍支援活動

日本では難しい問題、実施方法がわからないといった理由から敬遠されがちな「女性活躍支援・ジェンダー平等」。基本的には、プロスポーツの社会的責任活動は、マーケットに対応して実施するもので、とくに女性ファンが多いリーグで活動が実践されないのは、マーケティング能力も問われる事態となってしまいますので、八村選手が活躍するレイカーズの事例をご紹介します。

まず社長が女性という実態だけでも十分に体現している気もしますが、レイカーズは、ホームゲームのハーフタイムで地域の女性リーダーを表彰する、という活動を何年も前から実施しています。しかも、国際女性デーのある3月だけではなく、ほぼ毎月、継続的に、です。

様々な分野の女性リーダーをカテゴリーごとに表彰していますが、ビジネスリーダーから起業家、慈善活動家など毎月5名程度を選出し、公式サイトの活動報告で各受賞者の経歴まで紹介しています。パートナーは、Comerica Bank という地域の商業銀行で、レイカーズとは10年以上のパートナーシップ実績があり、子ども達にバスケットボールのゲーム感覚で算数を学ぶ機会を提供する「Math Hoops」など、様々なコミュニティプログラムを展開しています。

誰かを表彰する、という行為は、相当な労力と責任を伴いますが、地域のリーダーとしての社会的責任を見事に果たしていると思います。Bクラブの中にも、実践できているところがあるのは大変素晴らしいです。

2)環境問題系

・NBA Green

NBAが国連「スポーツ気候行動枠組み」の署名団体であることは、これまでもご紹介しており、最重要課題である気候変動問題に取り組む世界のトップランナーですが、環境問題への対応は NBA Green というイニシアティブを通して全所属クラブを巻き込みながら推進しています。

2007年という早期に始動している点がまず素晴らしく、今の多角的且つ包括的な活動に発展している礎となった重要要素かと思いますが、当時コミッショナーとして始動を強力に推進したスターン氏の社会的責任マインドと先見の明はやはりすごい。

私がピストンズで働いていた時にはまだなかったので、NBA Green 始動後の活動にも携わりたかったですが、初期の頃は、人気選手のボブルヘッドが登場する啓発映像を通してファンの日常生活での Tips を共有する活動や、「Threes for Trees」という3Pを決めた数だけ植林する、といったシンプルなものが多かったところ、やはり国連署名を機に、一気に加速し、今では全クラブのアリーナが連帯して持続可能な運営を目指す「NBAアリーナ・サステナビリティ・タスクフォース」始動や、オールスターやグローバルゲームズでの再生エネルギー100%運営など、画期的な躍進につながっています。(詳細の取材記事は こちら

・トレイルブレイザーズの環境活動

NBAクラブの中にも、早期から環境活動に注力しているのは、ポートランド・トレイルブレイザーズです。同クラブは、2010年に当時の使用アリーナだった Moda Center がサステナビリティ配慮レベルが最も高いとされる LEED Gold 認証を取得、2015年には初の Green Games を実施しています。

今ではリーグや他クラブでも実施される活動ともなっている「Threes for Trees」プログラムを最初に実施したのは(おそらく)トレイルブレイザーズで、2015年に導入しており、今ではホームゲームのアリーナ席に、3Pを決めた瞬間に木の形をしたパネルが光るようなしかけにして、ファンを楽しませています。社会活動の本質と非日常をミックスするのは難易度高いですが、非常にうまく組み込まれた事例だと思います。

海外のサステナビリティ系フォーラム等では必ずといっていいほど、同クラブのサスティナビリティ担当者の方々にお会いしますが、他クラブでは最近フルタイムを採用した、というところもあるなかで、トレイルブレイザーズは3名くらいいらっしゃって、活動の歴史と広がりを感じます。

3)特別プロジェクト

特別プロジェクトに関しては、リーグ主導のものを二つご紹介します。

・NBA Together

NBA Together』は、コロナ禍において、NBAがいち早く立ち上げたファンとともに苦境と闘うためのイニシアティブです。

ファンや地域とともに、1)事実を正しく理解し、2)助け合い、励ましあい、3)運動と健康維持、4)NBAファミリーの連帯の4つの軸で、前代未聞の事態を乗り越えるためのリーダーシップを発揮しました。

評価に値するのは、NBAがこのイニシアティブを始動したスピードです。これは以前に本コラムでも書きましたが、米国で非常事態宣言が出されてから10日足らずで完成度の高い活動をデザインし、世界スポーツ界初のCOVID対応リーグイニシアティブとして発表できるのは、日頃の地道な活動による実績の賜物でしょう。

・大統領選での投票推進プロジェクト

これは、私も少し驚いた活動ですが、激戦と言われていた2024年の米国大統領選において、NBAの存在意義を守るために、ファンに選挙で投票するよう異例の呼びかけをしました。

公式サイトに『Election Hub』という特設ページを開設、投票権を確実に得るための手続きガイドから選手による投票を促すメッセージまで、戦略的且つモーレツな啓発で、リーグだけでなく全クラブが参画し実践していました。NBAが米国大統領選挙においてここまでの活動をしたことはこれまでなかったと思います。

皆さんもご存じの通り、結果は願った通りにはなりませんでしたが、どんな状況下においても、NBAは「Social Responsibilty (社会的責任)は我々のDNAである」を貫き、引き続き社会的責任活動に尽力しています。

いかがでしたか。

もう少し詳細の解説や事例紹介については、間もなく開始する『Sports Purposeサロン』会員の皆さまと共有させて頂ければと思いますので、是非ご参加頂ければと思います。詳細については、後日発表いたしますので、今しばらくお待ちください。

次回の最終回コラムでは、今後の展望について、簡単にまとめたいと思います。

(文:梶川三枝 株式会社 Cheer Blossom 代表取締役)

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