3月に入り、今月末には桜の満開予想も出て、春の兆しも感じられるようになりましたが、年明けのメガスポーツイベントにおけるサスティナビリティ推進概観に続き、今月は、さらに視座を上げて世界経済界からみた「スポーツ産業」と「人・環境」との関係について概観したいと思います。
*2026年メガスポーツイベント概観(前編)はこちら
*2026年メガスポーツイベント概観(後編)はこちら
世界経済フォーラムについてご存じの方は多いと思いますが、グローバル企業のCEOなど、世界経済界のトップリーダーが年に一度スイスのダボスに集い、今後の世界経済の方向性について協議する会合のことです。
「ダボス会議」と称されるこの世界経済界トップリーダーの集いは、通常、1月下旬に開催され、今年は1月19日から23日まで開催されました。
実は、弊社が企画を支援している一般社団法人 Sport For Smile の上級顧問メル・ヤング氏(ホームレスワールドカップ創立者)が、同組織のスポーツアジェンダカウンシル委員を務めていた経緯から、世界経済フォーラムが社会的価値にも着目していたことは、私も10年以上前から認識していましたが、今年のフォーラムでは、これまでにない画期的な動きがありました。
それは、「Sports for People and Planet」レポートが発表されたことです。
このレポートは、2026年時点でのグローバルスポーツ経済の現状と将来予測(2030年、2050年)を分析し、環境リスクや身体活動の低下が経済に与える影響と、持続可能な成長のための3つの道筋を提案しているものです。発表直後には、世界スポーツ界のサスティナビリティ関連コミュニティでも大きな話題となっていました。
前半で現状分析、後半で今後の発展に向けての道筋が提示される構成になっていますが、このコラムでは、社会的責任・サスティナビリティに関連したファクト・重要メッセージを3つご紹介します。
1)スポーツ産業は2050年までに8.8兆ドル規模になると予測されているが、身体活動の低下と環境リスクにより年間1兆6000億ドルの損失となる可能性がある
レポートでは、スポーツ産業に大きく関わるリスクとして、「身体運動の低下」と「環境リスク」を挙げており、「対処されなければ、複合的な影響により、スポーツ経済は2030年までに年間収益の最大14%(5,170億ドル)を失い、2050年までに損失は年間18%(1.6兆ドル)に増加すると予測されている」と述べられています。
印象的なのは、スポーツ産業について、年間2.3兆ドルの総収益を生み出し、今後5年間で10%の複合成長見込、2030年までに3.7兆ドルに達すると予想され、長期予測では2050年までに8.8兆ドルに拡大するとされていることから、「世界経済の主要な牽引力」と明記されていることです。世界スポーツ産業界の急成長に、世界経済フォーラムも注目していることがわかります。
ただ、「スポーツセクターは二重のリスクを抱えている」として、健康と環境の悪化に対してますます脆弱になると同時に、スポーツセクター自身の将来の存続を危うくする劣化にも加担している点も指摘されています。
降雪量の減少により、「2040年までに冬季オリンピック・パラリンピックを開催できるのは10か国となる」ことや、カタールで開催された世界陸上での女子マラソン参加者の完走率が、猛暑により40%であったことなども、リスクの深刻さを象徴する事例として挙げられています。
2)スポーツ組織は、持続可能性と社会的責任を重視したスポンサーシップを推進する必要がある
後半の今後の発展に向けた提言の段では、3つの道筋のうちひとつが「パーパス主導の資本フローを促進する」ことであると示されています。
持続可能なスポーツスポンサーシップは、企業の社会的責任を強化し、ブランドの信頼性を高める重要な手段であることが述べられ、また、環境保護や社会的課題への取り組みを通じて、スポンサーシップが共通の価値観に基づくパートナーシップを促進し、長期的な成果を生むことができると提示されています。さらに、持続可能なスポンサーシップは、消費者の期待に応えることで競争優位を確保するために戦略的に必要であることも強調されています。
ベースにあるのは、「プロスポーツにおけるメディア放映権の90%以上、スポンサー収入の76%は屋外活動に関連」しており、主な収入源は環境破壊等に伴う直接的なリスクにさらされている、という事実で、「投資家が気候変動リスクの高まりを評価や資本配分の決定に組み込むにつれて、その投資判断はますます脆弱になっている」こと、また大規模イベントへの投資を正当化するために用いられる議論自体がますます不確実になっている点も指摘されています。
3)スポーツ産業界は、環境への影響を軽減し、利益とエンゲージメントを向上させるための変革が求められている
このレポートで最も画期的なのは、「統合的な行動と新たな繁栄モデルの必要性」と題された章もあり、これまでの繁栄の定義やビジネスモデルの革新を提示している点です。
「真の繁栄(経済、社会、環境)を達成するには、スポーツセクターの依存と影響に対処する、統合されたシステムベースのソリューションへの移行が必要」と説かれ、国連の「スポーツを通じた気候行動枠組み」や Sports for Nature(生物多様性を推進する枠組み)の重要性についても指摘されています。
そして、“スポーツの力“とそれを活用する意義についても提示されている点は、昨今の世界情勢と共通する認識があるように感じます。
「スポーツイベントは、高い可視性を持つプラットフォームとして、持続可能な材料や消費モデルを試す「実験場」として機能する」こと、また「ファンの参加を促進する戦略を通じて、持続可能な消費行動を促すことが可能」とも述べられています。
世界経済フォーラム的には、“スポーツの力“は、「スポーツは人々と地球に利益をもたらす高品質な成長の触媒となる」という表現になるようです。
一方、現状については、「スポーツ経済全体における取り組みは依然として断片化しており、特定の業界や地域に限定されている」ことが指摘されており、「有意義な進歩を達成するには、スポーツ経済全体の関係者との協調的なグローバルな行動が必要」とまとめられています。
そして、「スポーツセクターは世界の繁栄を促進する強力な触媒としての地位を確立し、人々と地球の双方に利益をもたらす質の高い成長を推進することができます」とスポーツ界への期待も込められている点に、希望を感じます。
昨今の世界情勢からは、とくにメガスポーツイベントなどは紛争リスクも考慮しなくてはならない事態に発展していますが、科学的根拠や統計などを活用しての分析が効力を発揮できる分野ではない気もしますし、リスクヘッジそのものが事業成長を直接的に妨げる要因にもなりますので、主に「健康」と「環境」という要因に限定してレポートが出されたのかもしれません。
社会的責任のレベルは、「いくら稼いでいるか」に比例するものです。競技力、稼ぐ力で世界を目指すなら、世界的な視座で社会的責任を果たし、信頼を得てさらなる事業成長につなげられるとよいと思います。
弊社のサポートが、そのプロセスの一助となれば幸いです。
事例を含むレポートの詳細と、世界スポーツ界で着目されていた論点等については、今月の Sports Purpose Club が運営するSPサロンプロで、共有させていただきます。

「スポーツx社会貢献をデザインする」について”世界基準&日本目線”でビジネス視点から学ぶ個人向け会員制勉強会『Sports Purpose Club』は、キュレーターを務める弊社代表の梶川三枝が、世界最高峰プロリーグ現場での実務経験と、BBC Green Sport Awards/ Sport Positive Awards での審査員やFIBA財団アドバイザーを務める等グローバルスポーツ界最先端のサステナビリティコミュニティでの実績・人脈からの学びを会員限定で共有、今後重視される分野の良質な情報に触れながらセンスを磨く機会とともに同志とつながる場を定期的に提供しています。
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