弊社創立15周年を記念して展開しているコラムシリーズ「NBAはなぜ社会的責任を果たすのか」、今回が最終回となります。これまで、マインドセットから具体的な取り組みまでご紹介してきましたが、最終回では、世界の動向も踏まえた、NBA独自の最新の取り組みについてご紹介します。
世界の2つの大きな動き
これまでNBAケアーズやNBAグリーンの活動について触れてきましたが、ここ数年の動きを概観すれば、コロナ禍に加え、BLM(Black Lives Matter)ムーブメントと「国連スポーツ気候行動枠組み」)が、大きな動きだったかと思います。
BLMに関しては、NBA選手の8割以上が黒人という背景から、とくに注力し、2024年の大統領選挙での独自性の高い活発な活動にもつながっていると思いますし、オールスターやグローバルゲームズのほとんどを再エネ運営していることも、注目に値します。2022年5月にコミッショナーのアダムシルバー氏が、あるイベントで「NBAは気候変動問題に真っ向から取り組んでいく」という発言をしたことから、「NBAが気候変動にフルコートプレスをかける」というタイトルの記事が公開されたことも印象的でしたが、着々とやるべきことを進めてきた成果がみてとれます(緊急性の高い社会問題に対しては、先にコミット、後から行動、という順序が大事で、センスがいい)。
以前にも書いた通り、NBAは、トップリーダーからスタッフまでが、「Social Responsibility(社会的責任)は我々のDNAだ」と口を揃えて言うほど、社会的責任を果たすことの重要性が社内浸透している組織ですが、プロスポーツが社会活動を行ううえでの”要領”を洗練されたレベルで心得ているとも感じています。
私がピストンズで働いていた頃は、いわゆる「中の人」の視野になってしまっていたため、客観的に見れていなかったように思いますが、ここ数年の社会の大きな動きへの対応力に、その実力が如実に現れていることは、すでに書いた通りです。そうならざるを得なかった背景と苦境と真っ向から対峙する姿勢には、自分がお世話になった組織ではありますが、心から敬意を表します。
新たな動き~社会活動分野の細分化~
最新情報としては、先月開催されたサマーリーグ(日本から河村選手、馬場選手、富永選手が参加、河村選手がシカゴブルズとの2WAY契約を勝ち取った大会)のサイドイベントとして、ダイバーシティ推進に特化したサミットが開催され、WNBAやFIBA財団を含むNBAファミリーも参画していたようです。
女性活躍支援のためのリーグ主導の全クラブ対象イニシアティブやメンタープログラムがあることは、Next Big Pivot 主催の Her Pivot Forum でもお話頂きましたが、ダイバーシティ推進、ソーシャルインパクト全般を主題とした会合は今回が初めてだったようですが、コミッショナーのシルバー氏と副コミッショナーのテイタン氏の両方が登壇されるイベントは希少で、NBAのコミットが感じられます。
参加者は、リーグやクラブのダイバーシティ推進、ソーシャルインパクト関連部門の担当者の他、パートナー企業や地域のNPO関係者等、様々な分野の関係者のようですが、最近の傾向として印象的なのは、社会的責任活動に関連する部門名・役職名が細分化されてきているということです。
私がピストンズで働いていたのは(もう20年前くらい)、「コミュニティ・リレーションズ」部門で、社会貢献活動を行う部署は他にはありませんでした。リーグには「社会的責任」部門がありますが、クラブでは、CR(コミュニティリレーションズ)部門が大多数だったと思います。
それが、コロナ前くらいに、フィラデルフィア76ersに「Chief Diversity Officer」が誕生したニュースを見かけた時くらいから、Sustaiability はもちろん、DEI, Social Impact といった、より専門性の高い対応をするための部門が創設されていて、すごい進化だと思います。
弊社クライアントにもよく、「社会の変化に対応すること」の大切さを伝えますが、今では世界スポーツ界のサミット等では、議論の内容の専門性も高くなってきているので、現場としても必死でついていくしかないのだと思います。日本ではまだ、社会的責任活動担当が専任という事例もめずらしいと思いますが、今後、様々な機能の部門に細分化していくことを余儀なくされる流れなので、企業体力をつけて、うまく乗り切れるとよいと思います。
「変化すること」は大変ですが、「変化し続けること」はもっと大変。でも、それができるクラブやリーグが、ファンからの信頼を得ることができる。リソースを効率的に活用した社会的責任活動のポートフォリオ最適化に向けて、今後もSSRコンサルティング事業に邁進したいと思います。
このコラムの他、15周年を記念して、”「スポーツx社会貢献」を世界基準&日本目線でデザインする日本トップレベルのコミュニティ”Sports Purpose Club“を先月始動しました。「スポーツの力」で社会に貢献したい!と思っている方はどなたでも参加可能で、個人向けの学びの場としてご活用頂ければと思いますので、是非ご入会ください。
お盆明けから、プロ1部対象の無料相談も再開しますので、是非ご活用ください。
