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NBAはなぜ社会的責任を果たすのか(2)

先回から『Sports Purpose』としてリニューアルしお届けしている弊社コラム、今回も先回に続き、NBAの社会的責任マインドと活動内容についてのシリーズです。

先回のコラムでは、主に背景とマインドについて書きました。今回は、具体的な活動について、ご紹介したいと思います。

現在、NBAの社会的責任活動として『NBA Cares(NBAケアーズ)』が知られていますが、私が優勝直後のピストンズで修行の機会を頂いた2004-05シーズンの翌年に立ち上げられたもので、現在では、『NBA Green(NBAグリーン)』という環境問題対応のプロジェクトも加わり、もちろんBLM(Black Lives Matter; 構造的人種差別に抗議するムーブメント)もカバーした多岐にわたる活動を実施しています。

その全貌についてここで詳述することはできませんが、ちょうど先月、弊社が企画支援する Sport For Smile プラネットリーグのプロジェクトの一環として公開された IDEAS FOR GOOD 記事で、NBAの社会的責任ディレクターを取材したものがありますので、現場のリアルなマインドと現場を統括するリーダーの直の声はこちらをご参照ください。NBAケアーズについて、とくにNBAグリーンの先進的な活動について、最新情報をご紹介しています。

このコラムでは、NBAケアーズの活動やその進化を生み出すためのポイントについて分析してみたいと思います。

1)全クラブが足並みを揃えて実施されていること

『NBAケアーズ』は、2005年から始動したもので、私がピストンズでインターンしていたのはちょうど直前のタイミングでしたが、当時から各クラブの活動内容を共有するコミュニケーション体制があり、リーグが全体の活動を統括する仕組みはできていました。今年で始動20周年とは、感慨深く、当時のイニシアティブ始動をリードした故デイビッド・スターン氏とその志を受け継がれてきた関係者の偉業には改めて敬意を表します。

全クラブが足並みを揃えて活動することの大きなメリットは、リーグ全体としての社会的責任活動のブランド力が強化されることです。ファンとのタッチポイントが圧倒的に多い各クラブの活動を、リーグが統括推進するしくみは理想的で、各クラブに地域性を考慮した独自のプログラムの実施を推奨している点も効果的です。

例えば、NBAは毎年1月に、アフリカ系アメリカ人の公民権運動を主導したマーティン・ルーサー・キング氏の偉業を称え、”MLK Day”のイベントを実施しますが、その具体的な実施方法は、各クラブに委ねられています。他の活動に関しても、毎月の記念日や社会の機運に対応して、予め年間スケジュールが組まれており、各プロジェクトを実施するためのルールは、少年ジャンプの倍くらいの厚さのファイルにまとめられていたことも覚えています(今はデジタル版だと思いますが(笑))。地域性も考慮しつつ、リーグ全体として足並みを揃えることで、各クラブの活動に独自性をもたせつつ、且つ全体としてブランディングとしても機能するしくみが、うまく構築されている例だと思います。

2)社会の変化への対応力

社会的責任活動の内容は、他のビジネスプラン同様、社会(マーケット)の動向に対応しなくてはならないものですが、その「社会の変化への対応力」は、まさにNBAが得意とするところで、全米、いや世界のプロスポーツリーグの中でも、ピカ一だと思います。

例えば、先にご紹介した記事にもあるように、NBAは早期に環境問題への取り組みに着手しています。当時のコミッショナー、デイビッド・スターン氏のご英断があったとはいえ、気候変動記事にある具体的な先進的活動にまで発展させていることには、組織全体としてのコミットと行動力の高さを感じます。日本ではまだその重要性が十分に認知されていない気候変動問題に対しても、現コミッショナーのアダム・シルバー氏は、2022年5月にフルコミットを表明しており、もちろん、国連『スポーツ気候行動枠組み』新基準にも署名し、2030年CO2排出量半減、2040年ネットゼロを目指して活動しています。

また、コロナ禍に際しても、NBAが行動は、一際早く、社会的責任先進リーグとしての貫禄を発揮していました。リーグがCDC(アメリカ疾病予防管理センター)から公開されている信頼できる情報を広く発信し、選手たちがファンに呼びかけて励ますことから始まった『NBA Together』プロジェクトは、たった3週間で構築したとは思えないほどの完成度で、ファンやNBAコミュニティを鼓舞し、連帯して苦境に立ち向かうための計り知れない勇気を与えました。

不足の事態において、こういった行動がとれるのは、正しいマインドセットを維持しながら地道な活動を積み上げてきた実力であり、ファンとコミュニティを大切にするというプロとしての基本中の基本が、非常事態宣言下でも揺るがず保たれていた証拠だと思います。

3)重要な社会問題から「絶対に」逃げないこと

社会的責任活動において扱うほとんどの課題は、「複雑系」です。つまり、一筋縄ではいかない。巷のアプリのように、ダウンロードすれば一瞬で使えるようになる、といった類のものではありません。

コロナ禍しかり、気候変動問題やジェンダー平等、BLMもしかり。とくにSDGsに代表される地球規模課題は、いくつかの課題が複雑に絡み合っており、シンプルな解決策はありません。

だから、活動に「正解がない」。そして、成果もすぐにみられるわけではありません。

この特徴が、社会的責任活動の積極的実践を阻む大きな要因であることは明白ですが、ここで、プロスポーツクラブの前に、ふたつの選択肢が提示されます。

「大変そうだから、よくわからないから、とりあえず逃げる」か、「解決できるかわからないが、自分たちにできることはあると信じて、とにかく挑む」の二つの道です。

NBAは、あらゆる局面において、確実に、後者の道を選びます。先回のコラムでご説明したような背景もありますが、やはり「社会的責任はNBAのDNAである」という理念が組織に浸透しており、その理念が、NBAの発展、今の繁栄を裏付けるものであることを、組織として理解しているからです。

現場での運営や活動は、様々なステークホルダーとのコミュニケーションに対応しなくてはならず、まだ十分なリソースが揃っていない日本のプロスポーツの現場では大変なことも多いと思いますが、オンコートのプレイだけでなく、オフコートでの”ホンモノ”の社会的責任活動も、NBAから学び、今後より広まってくるとよいと思います。

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