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オリンピック・イヤーに「スポーツの社会的責任」を果たすために

新年早々に、世界バスケットボール界は偉大なリーダーとスーパースターを失い、悲しい幕開けのオリンピック・イヤーとなってしまいましたが、弊社も今年設立10周年を迎えますので、「スポーツの社会的責任」をより多くのチームに伝えらえるよう、このSSRコラム「責任ある熱狂~ Responsibly Fanatic~」も継続していきたいと思っております。

実は、「スポーツの社会的責任」という言葉を初めて聞いたのは、元NBAコミッショナーでNBAを世界的ビジネスに飛躍させた故デイビッド・スターン氏からでした。ある国際会議で、これまでコーズマーケティングの一環として実施してきていた社会貢献活動を「儲かるからやるのではなく、スポーツに携わる事業者として、社会的責任を果たしていくべきである。」と力強く述べられ、深く感銘を受けたことを今でも覚えています。

当時はまだそのような発言をするスポーツ界のリーダーはあまりいなかったように記憶していますが、ここ数年、欧米では、「レスポンシブル」でないと許されない時代に突入し、従来の慈善活動やソーシャルイノベーションブームとは一線を画した、「社会的責任活動」がビジネスとしてのスポーツ事業者が “信頼を得る” ための手段として益々注目を集めています。

今年の初回コラムでは、NBAケアーズの前身プログラムでの実体験と、昨今の世界の動向を踏まえ、オリンピックイヤーの「スポーツの社会的責任」のあるべき姿について、簡単に少しだけ触れたいと思います。

  • 気候変動問題をスルーしない

昨年はCOPでのグレタさんの発言に続き、東京オリンピック大会のマラソン競技の札幌移転、また米スタンフォード大学でのフットボール試合中の学生による抗議行動や、日本での野球少年のデモなど、気候変動がもたらすスポーツ界への影響が、かつてないほどまでに露呈された年でした。

IOCは、すでにサステナビリティを「担当業務に関わらず全員が例外なく実践するもの」と位置づけ、そのビジョンと実践方針についての詳細を発表、国連もスポーツの力で地球温暖化対策を推進していく枠組みを形成し、グローバルスポーツ界は一丸となってこの待ったなしの地球規模課題にコミットし、取り組んでいいます。

一方、現状日本の課題は、この枠組みに署名した国内トップリーグはなく、スポーツ界にサステナビリティ人材がほとんどいないことです。海外では、NPOやサステナビリティ専門家との連携が進み、コミュニティが形成され、スポーツビジネス界の内部でも気候変動問題への対策に関する活発な議論が展開されています。日本は、この点において、かなり遅れをとっています。

ただ中には、画期的なプロジェクトやカーボンオフセットまで取り入れた活動などを実施しているチームもあるようですので、世界はすでに、気候変動への対策をしていないチーム等、「子どもたちのために」「未来のために」と叫んでも、誰も信用しない時代になっていることを認識し、取り組みを加速したいものです。

  • 「ソーシャル・イノベーション」でごまかさない

誤解されている方も多いかもしれませんが、「ソーシャル・イノベーション」を謳ってみたり、実践してみたりしても、社会的責任を果たしたことにはなりません。

世界で実践されている「スポーツの社会的責任」活動は、常にマーケット(コミュニティ)のニーズに応えるものであり、それが「ソーシャル・イノベーション」である必要は必ずしもありません。「ソーシャル・イノベーション」はさまざまな意味で重要ではありますが、社会的責任活動では流行を追う必要はなく、ただただ、マーケットと向き合うことが重要です。

何となく世の中で騒がれていること、流行っていることに取り組んでおけばよい、という考えは自然かもしれませんが、大切なのは、ファンとコミュニティが抱えている問題を抽出し、そのニーズに応える形でよりよい状況に彼らを導くことです。それは、マーケットをより深く理解することであり、ひいてはマーケテイングにもつながるのです。

SDGs時代に問われるのは、「いくら」稼ぐかより「いかに」稼ぐか、です。オリンピック・パラリンピック大会の自国開催が、日本を変える機会となるよう、また故デイビッド・スターン氏が唱え、故コービー・ブライアント氏も従事した「スポーツの社会的責任」活動を日本に普及させられるよう、今年も事業に邁進したいと思います。

(文:梶 川 三 枝)

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